人生で一度だけ

人生で一度だけ首を絞められて息が出来なくなった事がある。
いい思い出ではないが、そんなに悲惨な思い出でもない。
私の家は転勤族だったから、二年に一度、小学生の私は転校しなければならなかった。

何度も転校をする子供は、新しい環境に適応するための技術というか、子供の集団の中で生きて行く処世術のようなものを身につけるとのちに聞いた。
たしかに自分の性格も転校を重ねるたびに変わっていったように思える。
特に馴染むのが上手かったり、友達をつくるのが上手かったわけではない。
私の場合はとにかく周りに気を遣い、先生にも友達にも悪い事を絶対にしない子だと思われていた。
きっとだんだんと、そういう風に生きることが正しいと無意識に判断し、変化していったのだと思う。
と言えるのは、一番始めに通った学校では、ただのやんちゃ坊主だったからだ。
親もその変わりっぷりに驚いているくらいだ。
そして、事件が起こったのは初めて転校生となった2つ目の学校だった。
私はまだやんちゃ坊主の気があり、学校生活で我を出すようなこともあった。
まだ年齢も一桁でそんなことは当たり前なのだが、その後の自分からすれば、我を出すということの方が珍しいのだ。
ある日、理科の授業で野外に出た。
たしか、植物の観察をするためだった。
外でする授業に少し興奮した私は、仲良しの友達とじゃれて、首を絞めるような形になってしまった。
そして、その場面を運悪く先生に見られてしまったのだ。
先生は怒り、「授業の邪魔するやつはお前か」とセリフめいたことを言い、私の首を掴んで持ち上げた。
自分の身体が持ち上がったことにビックリしつつ、苦しくてもがいていたと思う。
すぐに下ろしてくれたのかもしれないが、かなり苦しかった記憶がある。
今学校でこんなことが起こったら事件になるが、当時は自分が悪かったとしか思えなかった。

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