百日紅を植えたい

一番好きな木は百日紅だ。
本当にすべすべで、まるで人が磨いたみたいな百日紅。
「さるすべり」とはよく言ったもので、あれならば本当に猿が滑っていくだろう。

ただ、好きだ好きだといいながら、あの木にも花が咲くということを、今年になって初めて知った。
今まで幹のことしか見てこなかったので、百日紅も普通の花を愛でる庭木なんだということを忘れていた。
ピンクの、ひらひらした、パニエの入ったスカートをひっくりかえしたような花だ。
よくよその家の庭で見かけるやつだった。

よく見かけるということは、結構な家の庭には百日紅が植わっているということだ。
言い換えれば、結構な家の人があのすべすべを手許においているということでもある。
何とうらやましいことか。

私が昔住んでいた家には床の間があって、そこの床柱材が百日紅であった。
すべすべなのに加えて更に磨かれているから、もうつるんつるんだった。
この世にこんなに上質なすべすべ感があろうかと思った。
あの床柱を触った日から、私はずっと百日紅のとりこである。

それで、一度は盆栽を買おうと思った。
ホームセンターの花の苗売り場にあったので、幹を触って吟味してみた。
でも、どれも全然すべすべでない。
どうしたらすべすべになるのか、大きさの問題なのだろうか。

最高のさるすべりを手に入れるには、どういうものがよいものなのかを調べなくてはいけない。
どの大きさのものがベストコンディションなのか、床柱のようにつるすべにつるにはどうしたら良いのか。

私の祖父は庭いじりが趣味だったから、きっと園芸の才は私のDNAの中にも流れているに違いないと踏んでいる。
きっと最高のさるすべりを育てあげてみせる。
それにはまず、園芸店で苗木を買うお金を貯めなくては。

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